クリスマス・イブ

もうすぐ12月も24日になり、雨は夜更け過ぎに雪へと変わり、あの子を乗せた翼は夜空へ消えて行き、B’zの稲葉は君の欲しがっていた椅子を買って帰るだろう。

私は幼少より妙にクリスマスおよび年末年始が好きで、病める時も健やかなる時も12月の終わりの方を心待ちにして冬休み前の授業をウワノソラで受けていた。

根暗なので基本的にイベントごとは台風だと思ってやり過ごすタチだが、クリスマスと年末年始だけは違った。

ツリーを率先して組み立て、ケーキも作るし年賀状を出すことも欠かしたことはなかった。

ただし留学中にあった去年の年末年始だけは闇黒だった。

友達はみんなクリスマスマーケットや年明けイベントを目当てにさっさと旅行に行ってしまい、無計画が祟って一人ドブリンの監獄に取り残されたおれは何をすることもできなかった。

ただただ大量の発泡酒を飲み、全世界の年明けイベントが放映される番組を観ていた。

孤独のあまりどうにかなってしまい、酔っ払ったおれはフレディ・マーキュリーのモノマネをしたりして悲しいピエロみたいな最悪の時間を過ごした。

あんな寂しい年末年始はもうこりごりらである。

クリスマスは長い歴史の中で成熟してきた神聖なエモ・イベントである。

メディアやコンテンツによる価値付けだけでなく、我々自身の中に刷り込まれてきた今までのクリスマスの思い出の歴史が積み重なって、今この瞬間にも12月25日という日は尋常ならざる強大なエモ・パワーを集積し続けている。もう誰にも止めることはできない。

クリスマスはこのエモ・パワーが一年のうちで最も高まる日である。2番は大晦日から正月にかけての時間で、次が眠れぬ夜にホットミルクをチンして飲む時間である。

クリスマスはクリスマス当日までをどう過ごすかがクリスマスである。

大切な人のためのプレゼントを買いに普段行かない街へ一人で出かけ、何を買うか決めるのに8時間ぐらい悩むも良し。

ちなみにあいにくおれには恋人がないので、恋人がいるフリをしながら日本橋コレドを小一時間うろつくことしかできない。ただむなしいし疲れるだけである。

ツリーを自室に飾って気分を盛り上げるのも良い。

留学に行く前の下宿にはドンキで1000円ぐらいで買ったクリスマスツリーを常備していたが、今ではその1000円で牛肉のひとつでも買った方が仕送りをしてくれるお父さんも喜ぶことを知っているので、そんなものは買わない。

第一どう考えても邪魔である。それにあれは作り物の葉っぱがすぐ落ちるので部屋が汚くなる。

戦場のメリークリスマスのピアノを練習するのも良い。きっとエモい気持ちに浸れるだろう。

だが今から始めるとなればどう考えても25日までに弾けるようにはならないし、25日を過ぎたが最後、練習の意欲はどん底以下まで低下することは明らかなのでやらない。

結局何もすることがないので、今日はジュンイチオブヒグチとスプラトゥーンで遊び、さっさと眠りにつくのだった。