尾ひれ100%ブログ

服に7つのシミを持つ男プレゼンツ

アイスランド4日目 氷河探索・オーロラ編



4日目である。正直もうほとんど忘れかけである。

ここまでのイッテQを思わせる過酷なスケジュールにより、体力のない矢吹氏は睡眠も足りておらず、もはやヘロヘロであった。

しかし目覚ましは5時にかける。というのも、翌朝は快晴の予報なのでオーロラの見られる確率が高いと温水の親父が言っていたのである。

今夜に改めてオーロラハントの行程はあるが、知っての通りオーロラとは見ようと思っても見られたり見られなかったりする憎いあんちきしょうである。チャンスは多いほうがいい。

正直起きるか非常に迷ったが、限られた機会だ、ここはひとつ気張ってみることにした。アイスランドなどという荒野の島国へとわざわざ冬にやってきたからにはオーロラを見たいではないか。

寿命を10年売る気持ちで起きてしばれる体を無理矢理極寒の屋外へと投げ出した。

たしかに快晴であった。

しかしオーロラの姿はない。がっくし!

その代わり、凄まじい星空は堪能することができた。

以前、白川郷にジュンイチオブヒグチと行った時に見た星空は、ジュンイチオブヒグチと一緒に見ることがもったいないほどきれいで、大層感激したのを覚えているが、それ以上に感じられた。

破廉恥に輝く月は発光しているとしか思えないほど明るかった。

ゆっくりと眺めていられればよかったが、あまりに寒すぎたので5分としないうちに、オーロラなし!はい終わり!解散!と言って部屋に戻った。

そのあとまた少しだけ寝て、血便出るまで朝飯を食べ、日が昇る前に出発となった。

氷の洞窟用にトレッキングシューズを貸してもらうことになっていたが、車が凍って靴が出せん(笑)とのことで貸出はなしとなった。笑い事ではない。このあたりテキトーである。自然をなめると死ぬと言っている。


ガイドは一新、乗り物もスーパージープなるものに乗り換え、朝焼けの海岸沿いを爆走する。

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これがスーパージープ。アイスランドの荒野を走るためにタイヤをくそでかいものに改造された悲しき生物兵器である。

運転手がお調子者で、悪路をマリオカートみたいに無茶な走り方で爆走し、乗客の興奮を促したが、おれはラウンドワンのロデオマシーンを真顔で乗りこなす男なので内心「ちゃんと走れ」と冷静であった。

到着である。どうだい、綺麗だろう。

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このあたり一帯から足元はすべて氷になる。

下図右下のヴァトナヨークトル、この巨大な氷河の一角に足を踏み入れたということになる。(わかりやすい)

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なんちゅうでかさだ。

氷の洞窟の内部はこう。

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氷の材質はまるでプラスチックのようにチャチで、俗悪極まる青い光も相まって、どう見ても人工物だった。触っても溶けないのだから尚更その感は強い。

氷は水流の様相をそのままに固まっているため、かつて激しい水の放流があったことを思わせる気泡や泥も内部に見て取れた。


ずんずん奥へ進んでいくと、足元と天井は質の悪い雪になり、最終的には水となって、それが洞窟の奥まで広がっていた。

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光が全く届いていないのでわけのわからない写真になっている。

こういうところに嫌いな奴を沈めたらきっと楽しいだろう。


氷の洞窟はどうにもリアリティに欠けて面白くなかった。

おれは早々外に出て空を眺めていた。

ガイドらは雪合戦をしてゴキゲンであった。自然をなめると死ぬと言っている。



次はアイスランド最大の氷河湖ヨークサルロンへ。ガイドには元の馴染みのオッチャンが戻ってきた。アバッキオ

ヨークスァルロンとは例の巨大な氷河ヴァトナヨークトルが溶けることでできた、つめた~い湖である。落ちたらそうとうさむい。

氷河の溶け出す速さは年々速まっているらしく、5年後には湖は溢れ、今の景観は失われ、さらには地球は滅亡するという。

ということである。百聞は一見如かず。ドン!

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「ん~なんだかおいしそう!赤城乳業が製造・販売する氷菓ガリガリ君」みたい!」

「他に感想はないのか?」

答えて、「落ちたらそうとう寒そう」

そればっかである。ろくな感想が出てこない。

この湖を泳いだりしたならきっともっとソウルフルな感想が湧き起こらずにはいられなかったろうが、どうにも、湖にでかい氷が浮いているだけでテンションが上がるほどおれも純粋ではなかった。

仕方のないことだが、どこも人が多すぎる。自然を鑑賞する人口密度ではない。

この写真左下にも氷の板を押し付けあう仲睦まじき男子たちが映りこんでおり、これに関しては微笑ましい。

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次は氷河湖から流れ出る河を辿って海岸まで出る。

ここが「ダイヤモンドビーチ」である。

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すげえけしきだ

氷河湖から流れてきた氷が波に押し戻され、テトラポットのように海岸にたむろしている。河口に近いあたりはもっと大きな氷塊がゴロゴロしていたが写真を撮り損ねた。

というかここもブラックサンドビーチであった。

黒い砂浜に打ち上げられた無数の巨大な氷が激しい波に洗われ、鋭い日光を反射し、浮世離れした光景を描き出していた。

ここを紹介する際ガイドは「これから連れていくところではダイヤモンドが取り放題!」とおどけていたが、帰りがけにはそのことをすっかり忘れて「夕食の時のカクテルのためにいくつか氷を拾っていきなよ」などと矛盾したジョークを繰り広げていた。

きっと思いついたこと何でも言ってしまうタイプなのだろう。なんにせよおれはこのオッチャンのこういうくだらないところは好きだった。


河の様子はこう。

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氷がドンブラコッコと流れているのがわかる。そういえばこの河にはアシカらしき動物が泳いでいたナ。


豪快な日差しであった。

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この後は折り返しである。レイキャビクを目指す。

途中、比較的温暖らしい地帯を通った。

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緑が広がっているのを見ると安心した。



途中でまた別の氷河湖に停まった。ここが一番印象に残っている。残念なことに地名を忘れてしまった。

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こちらの湖は完全に凍っていて、その上を雪が几帳面に覆っていた。

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湖畔というべきところは奥へ行くほど高く、次第に崖と一体化しているようであった。

それを登れるところまで登ることで、人々の喧騒から遠ざかることができた。

風もなく、柔らかい光の中の、落ち着いた静寂だった。後ろの崖で氷の溶ける音だけが聞こえていた。

湖を覆う雪はまったく清潔で、その中に氷塊や岩の起伏が作る影がまた美しかった。

主要な観光地ではないので、停車時間は短く、すぐに呼び戻されてしまったが、もうしばらくぼーっとしていたかった。

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LINEのアイコンはここである。



その後はなんやかんやあってこれがあるところでみんなで写真を撮った。(適当)

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そして夜になり、レイキャビク郊外にある変なレストランで降ろされ、同じ会社の他のツアーに参加していた人らと合流、飯をむしゃむしゃ食べてオーロラ・ハントが始まった。

二日間連れ添ったガイドはここでお別れである。きちんとお礼を言いたかったが、おれが飯をむしゃむしゃ食べている間に行ってしまったらしい。

天気は晴れの予報だったが、実際の星空はボンヤリしていてコンディションは悪そうだった。

連れていかれた観測地点には、他のツアーのバスもたくさん群がってきて、大混雑であった。空が狭いと観測地点も限られるらしい。

到着してすぐみんな目を輝かせて外に飛び出していった。

しかし外は寒すぎた。「こりゃたまらん」おれは一番に音を上げてバスに駆け込んだ。情けない話である。

温水の親父もすぐ戻ってきて、「みんなが叫んだら外へ出れば良い」と合理的な考えを提示して強がった。

しばらくすると結局ほとんどの人が車内に居た。

矢吹氏は出たり入ったりを繰り返しては、「ええいどうにかしろ」と内心イライラであった。

矢吹氏は身体をバシンバシン叩いた。

これは、ガイドのおっちゃんに教わったアイスランド式寒さの凌ぎ方である。男らしくて気に入っているので、帰ってからもたまにやっている。本当に寒さが凌げるかどうかは定かでない。

「もうだめだ。どうせ今日は出んよ」「早く帰ってあのロープレの続きがやりてーぜ・・・」車内に諦めムードが漂い始めた時、ガイドの一人がそれの出現を告げに来た。

みんな我先に外へ飛び出し、空を見上げた。

しかしそれらしいものは見当たらなかった。

聞くと、空でユラユラ揺れている白っぽいのがオーロラらしかった。

いや~ほんとかよwと半信半疑であったが、後できちんとしたカメラで撮ったものを見せてもらうと、写真のそれには色が付き、テレビで見るオーロラそのものであった。

写真をいただいた。

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オーロラは肉眼で見るよりもカメラを通して見たほうがはっきり見えるのだという。

この日見たオーロラはたしかに完全体ではなかったが、オーロラはオーロラである。

おれはこれから「オーロラを見た側」の人間として、「見ていない側」の人間を見下し、古今東西あらゆる飲み会で自慢をして回り、世界を旅することが趣味のアクティブでナウなヤングを気取り、黒髪の乙女たちをたくさん篭絡していくことだろう。

そういう矢吹氏を見ても「無理をしている」と冷たい目で見てはいけない。彼は一生懸命である。レポートも書かずに親の金で遊びまわっているということを暴露するなどもってのほかである。

実際、このまま何も見られずに帰るのと、どんな形であれ「オーロラを見た」という事実をお土産に帰ることができるのは全然違う。一同ほくほく顔で、帰路につくのだった。



バスはそれぞれの宿泊先まで送ってくれる。矢吹氏のホテルは一番初めであった。

もっともその晩はホテルには宿泊しなかった。
土下座してロビーに入れてもらい、そこでうとうとしながら朝の飛行機の時間を待った。中に入れてもらえなかったらドミトリーの料金を払って同じようにロビーで一夜を明かすつもりであった。

午前三時半~四時の間に、空港行きのバスがまた迎えに来る手筈であったが、これがまた来やがらない。

入れてくれた人にお礼を言うのに手間取ったので、その間に行ってしまったと思われる。このホテルは一番最初に通るのか、それにしても一分二分様子を見れないものか。

四時を過ぎても迎えは来ないので、最後のバス停であるバス会社の本拠地まで走ることにした。飛行機を逃したとなってはシャレにならん。一日目の経験が活かされ、素早い判断ができたのは良かった。

経験が活かされ、などと言ってもその解決方法はただのマラソン、全力疾走、あまりに原始的である。

20分で走れば間に合う計算で、地図を見るとそれは容易いように思えたが、無駄にギザギザな靴底が雪を食い、走れど走れど悪い夢の中のように、全く進まない。空気は泣くほど冷たいので喉はしんどいし、荷物は重い。加えて寝不足である。

なんとか時間通りに完走できたが、王宮に辿り着いた時のメロスでさえあれまで死に体ではなかっただろう。当然のことながら翌日風邪を引いた。


これで私のアイスランド旅行は幕を閉じる。

矢吹氏は以後ツアーを利用することは二度となかった。

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