尾ひれ100%ブログ

服に7つのシミを持つ男プレゼンツ

マッチョはB'zがお好き

筋肉のことを考えて過ごしていたら、十一月が終わろうとしていた。
豈図らんや。
マッチョを中心としたスケジュールワークを展開することで、週3くらいのペースで筋肉パートナーであるガンシゲルコウジと顔を合わせる羽目になった。変な名字が伝染る!
しかしその実、筋トレを実際に行ったのは2回しかない。ほかは、ただ遊んでいたに過ぎない。
カレンダーには夥しい数の「マッチョ」の文字が記されているにも拘らず、天は我々がとれーにんぐするのを妨げて止まない。(韻を踏みすと俊)
レーニング施設が休館だったり、営業時間が祝日で短かったり、おれが風邪を拗らせたり、あの手この手を使って我々を撫で肩の呪縛に縛りつけようとしてくる。
マッチョの神は、マッチョ初心者に厳しい。
お気づきかもしれないけれど、そう、おれはマッチョと言えば面白いと思っている。
ガンシゲルコウジも言っていた。

「マッチョとうんこが大好き」

そしてこう付け加えた。

「あとおならも」

おれは知的なインテリなので、彼の言うことは理解に苦しむばかりか、軽く嫌悪の念をもよおしかけた---------というのも、そもそも私が筋肉の増強を志したことは、将来の健康を案じてのことであり、決して彼のように低俗な理由からではないからである。(本当はおれもマッチョとうんこが大好きだったので、「おれもおなじ」と答えた)


炎の銀行員。
これは、おれの父親の自称である。
このニックネームと、おれのお父さんが筋肉マッチョであるという事実はいよいよ巷でコモン・センスとなりつつある。
というか、おれのお父さんはおれが小学生の頃からマッチョだったため、運動会などで父兄参加の綱引きイベントがあれば、必ず登場していたので、駿小生の間では既に「うわさのマッチョ」として話題になっていた。
何なら、お父さんは筋肉を披露するためだけに運動会を訪れているフシがあった。
おれはそんなマッチョなお父さんを誇らしく思っていたため、ある運動会で、内藤くるみのお父さんがタイトなスポーツTシャツを着て、大胸筋をピクピクしながら登場した時、おれのお父さんの時よりも心なしか大きい声援があがっていたために、悔しい気持ちになった。
おれのお父さんはけちんぼな唯心論者なので、タイトなスポーツTシャツなどを買ったりしないで、いつも極真カラテのTシャツを着ているから、大胸筋をピクピクさせても見えないのだ。
冗談のようだが、矢吹少年はわりとガチで悔しかった。だからこそ今でも覚えている。あのムラサキ色のタイトなスポーツTシャツ。あれがうちのお父さんにもあれば!おのれ内藤くるみ!

そんなお父さんから息子のおれが受け継いだものは、一重まぶたと剛直毛以外にもいくつかある。


北斗の拳あしたのジョーのコミックス
・B'z
・マッチョイズム

北斗の拳あしたのジョーは、おれがお父さんから全巻譲り受けた、言わずと知れた「マッチョのバイブル」である。あしたのジョーのほうはおれはイマイチハマらなかったが、北斗の拳のほうは完全な愛読者となった。
お父さんからCDを貸してもらった(そして割ってしまった)B'zも、マッチョ(男性的)なアーティストとして有名である。マッチョはだいたいB'zが好きである。
そして、マッチョイズムとは、主にアメリカで思想の主流派を務める「筋肉至上主義」のことである。
筋肉は力、そして強さの象徴であり、そのことは、アメフト部がカーストの最上位にあたることを考えれば、いかにアメリカにおいてこのマッチョイズムが盛んであるか推して知るべきところである。
そのマッチョイズムをおれは確かに受け継いだ。
というか、北斗の拳もB'zも全部マッチョイズムである。
お父さんは、おれにマッチョしか遺していない。
お父さんが車で延々とB'zを流したり、ブルース・リーターミネーターの映画をやたら観たりするうちに、おれが筋肉至上主義を植え付けられたとも考えられる。
何にせよ、マッチョイズムに洗脳されたおれからしてみれば、マッチョなお父さんは誇りであったことも納得していただけたかと思う。

うちの実家には、ボディビル雑誌のバックナンバーがありえん量貯蔵されているだけでなく、トレーニングルームが存在する。
お父さんが趣味で拵えたものだが、マシンこそないものの、バーベルとダンベルが充実しており、マッチョになるに不足はない。
お父さんはここでトレーニングをする以外にも、仕事帰りに公園で懸垂をしたり、犬の散歩のついでに公園で懸垂をしたりする。
夜中、スーツ姿のおっさんが公園でぶら下がっていたら、それは杉山家の大黒柱である。
お父さん曰く、懸垂が一番効くらしい。
ちなみに言い忘れたが、お父さんも別に老後の健康を案じて、とかではなく、(無論それも多少はあるだろうが---なにせ彼は健康オタクでもあるので)、単純にマッチョイズムに魅せられて筋肉トレーニングをしている。
なので、お父さんの言う「効く」とは、主に見栄えのする筋肉が効率的に鍛えられるという意味である。

そういえば、最近おれがトレーニングを始めたと聞いて、お父さんは嬉しがって結構な頻度で自分の筋トレ後の写真をLINEで送ってくる。
マッチョは得てして自撮りが好きである。
自撮りといっても、お母さんに撮らせているらしいけど。(「ここの、三角筋を撮ってくれ」
とか、夫に言われるお母さん、幸せ者である。)
この前のLINEで言っていたが、お父さん、久しぶりに会った後輩に「太ったんじゃない?」と言われたらしい。
そして、「ばーかーめー、これは筋肉じゃと言いたかったけど、そうだなぁと言っておいた(原文ママ)」
らしい。
マッチョは得てしてクールなのだ。


炎の早大生  矢吹丈