尾ひれ100%ブログ

服に7つのシミを持つ男プレゼンツ

男の一番のファッションは筋肉

月末にハロウィンを控えるこの10月、桜餅家にて、男だらけの鍋パーティーが開催された。
むさい男子大学生が寄って集まって鍋を囲むという、シチュエーション。
兼ねてからおれはこの、鍋に陰毛の二本や三本混入しそうなビンボー大学生的シチュエーションに憧れを抱いていた。
前回のサバの一件から、おれは調理の過程全般において、両国の同意のもと、一切の干渉を禁止された。(ポンコツシェフ不干渉条約)
代わりに、ジングージ・スグルという楽しんごに激似な男が、ネギの切り方一つにもケチをつけられるなど、不憫な役割を負っていた。
サバの一件の贖罪として、おれは洗い物をこなした。
だが、ポンコツシェフは洗い物においてもポンコツであるということを奴らは知らない。
あの日おれが洗った食器はどうか知らないが、以前おれが久しぶりに洗剤を使ってシコシコ洗ったコーヒーカップは、後日水を注いでみると永遠に泡が発生する不思議なオーパーツと化した。

鍋を平らげ、皆思い思いのことをしながら桜餅家でくつろぐ時間もまた、昭和のビンボー大学生的シチュエーションを思わせ、おれは一人、満足気だった。
桜餅たちはいいとしこいてデュエル・マスターズを始めたので、おれは桜餅家に常備されている参考書(ファッション雑誌)で勉強をしていた。
「セレブたちのファッション事情」のコーナーでは、完璧な肉体と顔面があるのを良いことに、白Tシャツとデニムとサングラスしか身につけていない、桜餅に言わせれば「許されない」スナップ写真が幾つかのっていた。
そこには、おれと身長を同じくしながらも最優秀半裸男優賞を受賞した、ザック・エフロンもいた。彼はおれの「将来の夢」である。
大人たちは聞く。
「将来は何の仕事につくのか」ザック・エフロンである。
「将来のキャリアプランはどのようか」ザック・エフロンである。
「将来のために今からすべきことは何か」それすなわち、ザック・エフロンなのである。
将来の職業とか、どうでもいいのである。おれはムキムキのイカした男になりたい。
ムキムキに!
その思いを、隣で熟女モノのエロ本を眺めていたガンシゲルコウジに零した。
「WAKARU!(シゲル特有のイントネーションで笑いを誘う「わかる」)」
どうやら彼もムキムキの男になることを夢見る撫で肩の一人であったようだった。
「今度、ジム行こうぜ。一人では、怖くて行けない。月曜が空いてる日、行こう。」
おれもジムには行きたいが、一人でジムに行くのはメンタル的に厳しいということで困っていた撫で肩の一人であったので、これは渡りに船、という思いで、強く賛成した。

その時は軽い口約束でしかなかったので、本当にシゲルとジムに行くことになるのかはわからず、以来、おれは筋肉のことを考えながら悶々とした日々を送っていた。
しかし一週間後、今度の月曜むきむきにならないか、という気持ちの悪いLINEをおれは受け取った。
こうして撫で肩の男たちによるむきむきへの旅が始まった。

とりあえず、新宿で一日無料体験できるジムに行こうということになり、おれはかつてない能動性を以ってネット検索に没頭した。
「モンキージム」というところが予約なしで体験できるようなので、そこをシゲルに提案すると、彼は名前を気に入った。
モンキージム、良い名前である。
撫で肩の男たちは、バナナとか、ゴリラとか、そういった類いのものに面白味を見出す性癖を持つ。
月曜にはむきむきの男になれるかと思うと、ワクワクして眠れなかった。

当日、我々は集合するや否や挨拶もおざなりに早速「モンキージム」へ向かった。
道中シゲルは、念願のヘルプを初めてバイト先で任され、舞い上がっていた。
しかし、そろそろ散髪したい思いもあって困っているとのことだった。
どういうことかと言えば、ヘルプへ行くのに髪を切って行くと、一緒にヘルプで出張するバイト仲間に、気合をいれて来ている、合コンのノリで来ている、きもい!と思われそうで嫌らしい。
相変わらず空知英秋のように繊細なことを気にする男だが、気持ちはわからんでもない。
実際、我々の通う美容院は、物凄くカッコ良くしてくる。

モンキージムでは、小柄な細マッチョの美青年が丁寧な案内をしてくれた。
ジムの雰囲気にホモホモしさはなく、我々は胸を撫で下ろした。

ウェアに着替えた。
おれはまたもや浦和レッズのレプリカユニフォームに身を包むことになった。これしか速乾性のありそうなTシャツがないのである。
今はくそださいが、おれ自身が乳首浮くほどのむきむきになってしまえば、DIESELのTシャツと互角に渡り合うことができると思っている。
ガンシゲルコウジはサッカー部時代のウェアに身を包み、颯爽としていた。だが、靴がクソダサな上、サイズが合っていなかった。
高校時代に使用していた上履きを履くおれのほうがいくらかマシに思える始末であった。

筋トレには、真面目に取り組んだ。二人ともむきむきになりたい気持ちは本当だからだ。
まずストレッチ。ウォーミングアップで自転車漕ぎ。様々な筋肉マシンを10回×3セット。最後にランニングマシーンを30分。そしてまたストレッチ。
部活さながらの筋肉虐めに我々は虫の息となった。
しかしまた我々は筋肉の悲鳴を聞くと共に、まだ見ぬ自らのマッチョな肉体が近づいてくるのを感じていたので、幸福であった。

筋トレ後にはプロテインを飲んだ。
味は当然のことながら「バナナ」を選択、物凄いウマさだった。
完全にマッチョになった気でいたので、シャワーを浴びに服を脱いだ時は
「アレ!?」
という思いであった。
マッチョへの道は厳しい。

帰りには、たんぱく質をとらねばならないという切迫感から、びっくりドンキーを訪れた。
びっくりドンキーの300gハンバーグが我々の血となり肉となった。
筋トレ後にはとにかくたんぱく質。これは定説である。
しかし、オーガニックならOKという謎理論で、騒ぐシゲルを説き伏せ、おれはオーガニック・ビールを頼んだ。
一方シゲルは「メリー・メリー・ゴーランド」というゴテゴテのパフェを頼んだ。
撫で肩の男は得てして意思が弱い。

そうして、ムキムキの手応えを一身に感じながら、我々はそれぞれの家路を辿った。

後日談として、精子たんぱく質から成る、という根拠から、我々は筋肉痛が治るまでのオナ禁を誓った。



未来の最優秀半裸早大生  矢吹丈