尾ひれ100%ブログ

服に7つのシミを持つ男プレゼンツ

第二回TOEFLレポ



前日の夜は、洋酒を少し飲んで早々に床へ入った。
「洋酒を飲んで床へ入る」という行為の文学性にウキウキとしながら、翌日の試験に対するそれなりの不安を抱えていた。
「一丁前に不安がりやがって、恥を知れ!」

お寝坊ボーイのおれとて、大事な試験の当日は目覚めが良いというジンクスを抱えていたが、その日の朝に限っては猛烈に寝起きが悪かった。
深夜に何度か目を覚ました。ジャガイモ大学でアイダホポテトを食べる夢を見た。

入念なラジオ体操を行い(3番までを3セット)、受験会場であるスイドーバシに向かった。
スイドーバシとは、受験時代に駿台予備校の夏期講習に参加する際拠点にしていた地であり、また受験期間の折にも拠点として利用していた地として知られる、かの東京ドームシティである。
さらにいえば、矢吹伝家の宝刀、採用即バックレの犠牲となった警備会社のバイトの面接を受けた地でもある。
そのため、スイドーバシの地形は熟知していた。

パンクチュア(時間に性格、の意。おれはこの単語を、ディズニー映画「アラジン」によって小学生の頃既に覚えていた。)な性格のおれはかなり早くスイドーバシに着いた。
そこで当初の予定通り松屋にて朝食を摂ることにした。
大学受験ならば朝昼晩とバナナ・アンド・ヨーグルトを貫くことは全ての東大生が既知の「受験鉄則七カ条」のうちの一つだが、TOEFL受験の場合その鉄則は通用しない。
なぜならば、TOEFLテストが昼休み10分、試験時間4時間半に及ぶ人間破壊テストであるからだ。
さらにその10分間の昼休みもできることならば、他の受験者のスピーキングに耳を傾けメモをとることに集中したいので、昼飯は摂れぬも同然であると考えて良い。
したがって、朝飯には4時間半を戦うためのカロリーを摂取する必要があった。
そこで牛丼である。
ところが、ここで問題となるのは「腹痛」である。
東大を受験する学生ならば知っていて当然とされる「大学受験における七つの天敵」のうち、最も恐れられているものが「腹痛」である。
多くの受験生や一部の矢吹丈にバナナが神格視されている理由はそこにある。
圧倒的な消化の良さとカロリーを併せ持つことに加え、その形状と「Banana」という発音の美しさ、さらにはバナナ=ゴリラというイメージの面白さ。
その“神アイテム”バナナが使えない以上、「腹痛」に対処するには試験本番までにできるだけウンコをブリブリしておくより他ない。
ところが、おれは慢性的な便秘に悩まされるダサい男であった。
便を秘めると書いて便秘である。こんなダサい熟語もない。
その試験当日、おれはウンコを放らないこと実に三日目であった。
試験前日何度も便器に腰掛け気張ったが音沙汰なし。アナニーも効果はなかった。
おれは当日のこの朝飯後に賭けていた。
この朝飯後に便意を召喚できないようではTOEFLに勝つことはできない。
「出でよ!!」
おれは松屋のトイレで、自らの大腸に眠るウンコを呼んだ。
が、ダメ....!ウンコ、来ず....!
しかしそこに射し込む一つの天命!ウォシュレット....!!
おれは公共のウォシュレットを腸内洗浄に用いた。
本来公共トイレでウォシュレットを腸内洗浄に用いることはタブーとされている。
詳しい説明は省くが、汚いからだ。
だがナリもフリもいずれにおいても構ってはいられないのが受験生。そしてナリフリ構っている人間が敗北する戦場、それが受験なのだ。
おれは三日ぶりにウンチを捻り出すことに成功した。
ウォシュレットを用いたとはいえ、肛門がめくれ上がるほどに力んだため、汗だくで疲労困憊となったおれはあろうことか流すことを忘れた。
そしてそれは同時に来た!
大便を流すことなくトイレを出ると、お姉さんがドアの前で順番を待っていた。
この時矢吹初めて気づく...!失態...!自らの最大の失態...!流し忘れ...!!
しかし時既に遅し、お姉さんとはもうすれ違ってしまった。
ここで「あ、ウンコ流し忘れました!」などと言ってお姉さんを呼び止めることはもはや犯罪と言われても文句は言えない明らかな変態行為である。人間としての終焉を意味する。できない。忘れ物をしたと言って呼び止めるか?その間に既にトイレの扉は哀れなお姉さんによって開かれていた。
逃げる矢吹。
「まあ、いっか!」
もうどうしようもないので、おれは性的興奮を覚えることにした。
受験鉄則第4カ条、試験直前にしたウンコを流し忘れてお姉さんに見られることがあろうとも、決して罪悪感覚えることなく性的興奮に転換することに努めよ。



こうして試験は始まった。
前回シサンを舐めた最大の関門、マイクテストは「あーーあーあーああああーあ、あーあ」と知的障害者の物真似をすることで難なく突破した。
まずはリーディングだが、これはやはり集中力を要した。
周りのマイクテストが気になる気になる。
ただうるさいだけではなく、前回のおれの痴態が思い起こされ、激しく動揺を誘った。
そのために時間内に全ての問題を解けないという痛恨の痛手。これは痛い。
次はリスニングである。
半分ぐらいなにいってるかわからなくてオシッコが漏れそうになる。
ここで恐れていた事態が起きた。
「腹が痛い!ウンチ!」
松屋で捻り出したといえど、やはり不完全便通感は否めかったことに加え、リーディングでの精神的外傷がその悪魔を呼び覚ました。
「馬鹿野郎~~!!」
原辰徳のような七面相でなんとかリスニングを終えると、トイレに駆け込んだ。
昼休みにウンコで隔離されること自体本来ならば痛い。受験会場で他の受験者のスピーキングを聞けないからだ。
赤痢菌をぶちかまし、後半戦に突入した。
スピーキングである。
スピーキングは前回とさほど進歩せず、意味不明なことを口走って終了した。
ライティングは、構成は上手くいったが時間が足りずに字数が目標より不十分に終わる。
おれはウンコをだだ漏らしにしながら受験会場を後にした。


アイダホポテト杉山