尾ひれ100%ブログ

服に7つのシミを持つ男プレゼンツ

引っ越しのこだわり

5月、おれは家を追われて難民となる。

おすもうの地、両国ともおさらばだ。

不動産屋さんに、両国ってどんな街ですか?と聞いたら、張り手のポーズをしながら「どすこいどすこい、ってイメージですね」と言っていた。

 

次の引っ越し先は大変迷った。

仕事はほとんどテレワークなので、どこに住んでもいいといえばいいのだが、あまり都心から離れすぎるとトモダチと遊ぶのに有給が必要になる。

それに郊外は「東京」を感じられなくて寂しいではないか。

ただでさえ孤独を極める身、閑静な住宅街にでも住んでみろ。きっと自己の存在すら認識できなくなって「意識の概念」と化すのがオチだ。

やはり「東京」だ。「東京」が持つ無限の人の交差の中に身を置いてこそ自分を発見できる。

 

「東京」イントロクイズ

第1問「ひーびー、」

答え:きのこ帝国

 

みんな、住む家に外せない条件って何だい?

僕はね、日当たり。これに尽きる。

あとね、2階以上。これに尽きる。

 

日が差し込まない土地には草も育たないんだよ。いわんや人をや。

特におれみたいな精神弱者は日光をドーピングしてセロトニンを強制分泌させるぐらいじゃないと3日と持たずに朽ち果てる。

そして2階以上。これ大事。

おれは1日のうちに36回はバルコニーに出て煙草を吸うし、日の光を取り入れるので、その時に人と目線が合うなど最悪である。

当然、バルコニーからの視界は開けていないといけない。

 

そして綺麗でないといけない。

汚い家は最悪である。

たしかに綺麗な家でもおれの手にかかればゴミ溜めと化すのに1週間を要さないが、それでも綺麗な家に住みたい。

醜い野獣がそれでも人を愛したいと言うように綺麗な家を求めている。

物件を検索するときの並び順はもちろん「新築順」だ。

家なんてのは新しければ新しいほどいいに決まっていて、壁は厚ければ厚いほどいいのである。ガッチガチのコッチコチでパンチしたら骨が折れるぐらいの壁がちょうどいい。

ボロアパートの浪漫に憧れる奴は汚い家の辛さを知らない素人である。

そう、部屋が誰よりも汚いからこそ、誰よりも汚い部屋の辛さを知っているということだ。

それに汚い家は惨めだ。

汚いと、帰宅するだけで泣きたくなっちゃいそうだから絶対だめだ。おれは精神が弱いんだから。

 

それで住む街だが、結局早稲田の周辺に決めた。

正直非常に迷ったがね。

みんなの、住みたい理想の街はどんな街だい?

僕はね、寂しくないところ。これに尽きる。

寂しいのがとにかくつらくて、人生の唯一にして絶対の悲しみ、それは孤独なんです。

ここで言う寂しくないとは、商店街があったり、公園が近くにあって行けば子供の遊んでるのが眺められたりすることです。

この世界にはたくさんの人が生きていることを思い出させてくれないと。なぜならおれの存在が危ういから。「意識の概念」になるから。

だから「東京」なんです。

 

「東京」イントロクイズ

第2問:君と別れて僕は石ころになって〜

答え:銀杏BOYZ

 

公園って良いよね。

公園っていうのはパブリックだから。誰にも開かれてる。

おれみたいなロン毛がふらっと訪れてベンチに座っていても誰も怒らないし、誰も気にしない。

公園はいつでもオープンだ。子供も、老人も、浮浪者も、全裸になるSMAPもみんな受け入れてくれる。

この世界に、自分の部屋以外にも居場所がある。それはすごいことだ。

おれはここにいていいんだ、生きていてもいいんだと教えてくれる場所。その街の名は、とうきょう〜〜〜〜〜〜(きのこ帝国)

その観点から考えて行き着いたのが早稲田だったんです。

早稲田はおれが大学時代を過ごした無限のエモパワーの集積された街である。

今でもおれが感じたエモパワーの、その残り香が随所にある。

300回以上通った油そば屋に、ひとりで海苔巻きを食べた大隈庭園に、深夜レポートを印刷するためだけに使った24号館に、おひやに氷を一個しか入れてくれないカツ丼屋に、両の蛇口から10リットル/秒の水が出る銭湯に残っている。

おれはこの街を知っているし、この街もおれを知っている。だから怖くない。

そう、おれは郷愁に屈したのだった。